東南アジアで生きる経理マンの道具箱

東南・南西アジア諸国で働く経理担当者や、海外子会社管理の担当者等を対象に、会計・法務実務に関する情報を発信しています。海外生活についてもちらほら。

【英文契約書】Loan Agreement(金銭消費貸借契約書)の会計面チェックポイント5つ

 

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こんにちは!

 

第一回目の記事は、英文契約書を会計面からチェックした際に、どのような点に着目するか、というものです。事例として、Loan Agreement (ローンアグリーメント:金銭消費貸借契約書)を挙げます。

 

私が初めて経理・法務担当としてシンガポール勤務になったとき、最初に取り組んだ仕事が、英文契約書のチェックでした。シンガポール法人からインド法人へ強制転換社債の発行を用い、SPC(特別目的会社)を設立する契約書で、法文書に慣れていない経理マンの私は、ずいぶんと苦しんだものです。

 

海外でビジネスを行う際、英文契約書を自分で作成することは、あまりないと思います。通常、弁護士に作成を依頼するか、(銀行借入であれば)銀行側が作成するはずです。

ところが、誰かが作った契約書は、誰かがチェックはしないといけないのですね。

 

で、

いざ英文契約について情報を得ようと、「英文契約書の〇〇」と書かれた解説書をひもとくと、弁護士など法律実務家によって書かれたものが多いです。

Thereby やWhereasなどの、いわゆるLegal Jargon(リーガル・ジャーゴン:法文書特有の言い回し)や、法律的な構文の解説といったものがほとんどです。

となると、会計面が弱いため、経理担当者がどこをチェックすれば良いのか、わからないんですね。

 

 以下では、会計面に着目してチェックポイントを解説していきます。

 

読み方として、冒頭から真面目に読むことはしません。

以下の5項目に従って、特定の英単語に着目したあとに、必要なことろだけを、まずチェックしていきます。

その後、必要があると感じれば、弁護士事務所などに契約書チェックを頼めばいいわけです。

 

 

1.契約締結年月日

 

まずは、契約の締結年月日をチェックしてください。

概ね、契約書の冒頭と、最後に署名する欄の2カ所以上に記載されるはずです。

(署名欄には記載しないこともあります)

 

(1)契約書の冒頭

 

(例文)

「THIS LOAN AGREEMENT is made on the 10th day of March 2018 between ABC company Pte Ltd and DEF company Pte Ltd...」

 

交渉時に双方が合意した年月日であるか、確認しましょう。

日本であれば、作成者がこの日付を間違えることはあり得ませんが、こと東南アジアやインドなど海外となると、担当者がうっかり(?)間違えることが多いです。

大きな銀行だからといって、緻密なわけではありませんのでご注意を。

 

補足ですが、会社の住所や、税務登録番号なども合わせて明記しているはずです

万が一のために、チェックしておきましょう。

 

(2)署名欄に併記

 

こちらの年月日もチェックしておきましょう。手書きで書く場合が多いです。

契約書本文中の契約年月日と、特別な事情がない限り、一致するはずです。

(冒頭に印字されていれば、ここで記入しない場合もあります)

 

2.利率

 

利率は、非常に重要です。

双方が合意したものであるかどうかを必ずチェックしておきましょう。

 

英文契約書で、「Interest」(利率)という単語を探して下さい。

見つけたら、そこから読み始めます。

変動金利の場合は、何パーセントと、明確に表記していないことが多いので見つけにくいですが、英単語に着目しましょう。

 

(例文)

The rate of interest applicate to each Advance or the balance thereof shall be the rate per annum conclusively determined by the Bank to be the aggregate of Cost of Funds and Margin. Interest shall be paid in arrears by the Borrower to the Bank on the last day of each Interest Period, in the currency in which such Advance is denominated」

 

☆英単語解説

applicate to~:~に適用された

the balance thereof:(the balance) of this agreeement と読み替えてください。  法文書特有の言い回しです。

conclusively:最終的に。

aggregate:累積。ここでは名詞で使われています。補足ですが、aggregate liabilityで、累積責任ですね。法律文書でよく見かける単語です。

denominate:表示する。動詞ですね。ここでは通貨に関することなので、in the currency in which such Advance is denominatedで、「前もって表示された通貨で」といった意味となります。

 

一文目で、利率を、Cost of Funds and Marginの累積と定める、とありますね。

 

概ね、銀行から借り入れる際、

銀行間取引金利+ローンスプレッドが、利率の計算式となります。

銀行間取引金利は、日本ですと、東京銀行間取引金利(TIBOR:Tokyo InterBank Offered Rate)に概ね等しくなります。

シンガポールだと、SIBOR。概ね週次で変わっています。

 

例文では、Cost of Funds (COF:資金調達コスト、調達金利)と表現されていますが、概ね銀行間取引金利と等しくなるような変動金利を意味しています。

やっかいなのは、銀行間取引金利です、と明記しないことですね。

 

これに対し、ローンスプレッドは、銀行側の取り分(利ザヤ)のことです。

例文で、「Margin」とありますが、交渉時に、銀行側が提示した提案書で明示されることが多いです。よって、契約書の本文中に記載されないことがあります。

契約の最終段階で再度、銀行担当者と具体的な利率のすり合わせを行っておくと、より安心ですね。

 

 

なお、事例では、銀行からの借入を想定しています。

でも、海外法人(グループ会社など)からの借入の場合もありますよね。

 

この場合、グループ会社同士なんだから金利ゼロでいいじゃん、なんてしないでくださいね。移転価格税制の問題が生じてしまいますので

たとえば、契約書の音頭を取るのが営業畑の駐在員で、会計に明るくない方だと起こりえるミスです。

 

移転価格税制の解説はまた改めて記事を設けようと思います。

 

3.振込金額と実行年月日

Drawing やPaymentという英単語を探してください。

返済を初める時期と金額が明示されているはずです。

合意内容と合致するか、チェックしておきましょう。

 

4.返済計画

 

契約書の本文ではなく、別紙(Appendex)に、表形式で挿入されているのことが多いです。合意内容と合致するか、チェックしておきましょう。

 

5.解約条項と特別な条項

1~5をチェックした後に、追加でチェックするのであれば、解約(Cacellation)の条項でしょう。

 

あとは、その契約書特有の条項というのがあります。

たとえば、借入について親保障(日本親会社と海外銀行間の保証契約)を結んでいる場合、親会社の赤字が3年続いたら、全額を返済してもらう、といった条項ですね。

 

ただ、このような特別な条項があるかは、銀行担当者(契約書作成者)にヒアリングすればすむことです。

契約書について、特別な条項はあるか、ざっと解説してほしい、と一言頼めば済むことです。いちいち頭から自分で解読する必要もありません。

 

その後、必要があると感じれば、弁護士事務所などに契約書チェックを頼めばいいわけです。

その分、料金はかかりますが...。

 

6.東南・南西アジアあるあるの注意点

 

最後に、海外ならではの注意点を述べておきます。

1~5はあくまで契約書本文の文言が問題となっています。

アジアでいえば、シンガポールや香港などの、金融先進国であれば、このあたりをカバーしていれば問題ないでしょう。

 

しかしながら、たとえば、ミャンマーやインドになると、話は大きく違ってきます。

上記のほかに、銀行担当者との密なコミュニケーションは欠かせません。

銀行からの送金時に急に実行してもらえなかったり、担当者が失念していたり(?)、多くはありませんが、あり得ることです。

 

銀行であれば、Relationship Manager (銀行側の実務担当者)が決まっているはずです。契約の実行日付近には、電話やメールでやり取りをし、適切に実行しそうか、確認が絶対に必要です。

 

 

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